今日の記事はBLにはほとんど関係がなく、かつBL的情報を扱った内容でもないので、興味のない方はスルーしてくださいね。
伽鹿舎さんという、熊本にあって、九州でだけ買える本を作っている出版社さんのトークイベントに行ってきました、というお話です。
先に、個人の感想であり、伽鹿舎さんが意図した内容だったり、イベントの企画主である(たぶん)tsugubooksさんが思い描いたようなレポートおよび感想ではないかもね、ということはお断りしておきます(笑)。イベントのレポートというよりも、どういう気持ちで聞きに行き、どのような感想を持って帰ってきたかという話がメインなので、イベントのレポートとしてはほぼ役に立ちません。
また、伽鹿舎さんはWEB雑誌もやっておられて、加地さん(伽鹿舎のメインの方)はWEBでの読み物というものにけっこう深く関わっていらっしゃった方でもあったのですが、今回は電子書籍とかWEBで読むという書籍形態についてはべつの話として触れず、基本的に「紙の本の未来」という内容です。イベントも、だいたいそういう内容だったと(私は)思っています。
さらに先に予防線を張っておくと、そもそもなぜ、以下に書くようなぐだぐだした事柄を延々と考えていたのか、という「自分のこと」を語りたくなるような気がするのですが、正直そんなことは頼まれでもしないかぎり名もないエンタメ作家のすることではないと思うので、極力書かない予定です。というかもう、この感想自体ここのブログでやるのはどうだろうと思っています。お目汚し失礼しますね……。
興味のない人にはかけらも面白くなく、かつどうでもいいと思われるでしょうし、興味がある人にとっては「なに今更乏しい知識で偉そうに語っちゃってんの」という感じです。何様のつもりだ、と言われれば、BLを書いている人間としてではなく、単純に本が好きというだけの名もない通行人の立ち位置です。
でも、どんな素人のどんな駄文でも書いて残しておく価値は意外とある(変なところで役にたったりする)ので、やっぱり感想は書いておこうと思った次第。
長い前置きでありました。
こんな感じで異様に本文も長いので、めんどくさい意識高い系ぶった文章を読むのは苦痛だという人のために、最後には簡単な「ひとことにまとめた感想」も置いてあります。
さて。
この業種(出版関係、本をあらゆる意味で「作って売る」ということ)には正解がありません。唯一正解と言ってもいいのは「売れること」であり、その正解にいたる道筋だったり方法だったり、ジャンルだったりは、正解の数だけ種類があってもいい。
誰かが成功した方法をなぞれば成功の確率はあがりますが、しかし絶対に成功するとは言いきれない、めんどくさい業種じゃなかろうかと思います。
そういう中で、出版にいる人は、自分の分野で日々、「正解」にいたれるように頑張っています。最近はこういう設定が流行りだよねとか、なろう系ならニートで勇者だろう、とかいった内容のことから、◯◯社のフェアはすごくよかったみたいだからうちでもやろうとか、メディアミックスしようとか、これって内容がこの棚に来る人にも受けそうだからこっちにも陳列してみようとかの、売り方に関することまで。
最近ヒットしたもの、と考えると、やっぱり『火花』とか思いつくと思うのですが、あれ、出版社はどこだかご存じですか? 文藝春秋です。老舗で、まあ大手と言っていいと思います。ワンピースは集英社、進撃は講談社です。みんな、たくさん社員のいる大きな出版社です。
なんとなく、「ヒット作」=すごく売れている作品、って、大きい出版社から出てるイメージないですか。
まあそうじゃない作品もあったりするけど(ヒットが出て有名になる小さい会社もあるわけで)概ね、そのイメージは間違っていないと思います。たぶん。
そういう売れている本って、どこでも売っていますよね。
どこでも売ってはいるのですが――私も昔ちっちゃい本屋さんでバイトしてたので経験ありますが、ベストセラーの本って、小さい本屋さんだとか、地方の書店にはなかなか届かないのです。頼んでも届けてもらえない。
かたや、どこにいっても同じ本ばかりがたくさんおいてある。
マニアな本読みにとっては、書店にいっても買いたいちょっとマイナーな本がおいてなかったりする。
(BLでいうと、地元の本屋さんはそもそも棚がないとかですね)
かと思えば、売りたい本屋さんには欲しい本が入荷してこない。売れる本が入荷しないだけが原因ではないけど、本屋さんが街からどんどん消えていってしまう。
ここまで、私の見聞きしている現状に基づいての、前提説明です。
で、イベントの話に入ります。
ざっくりまとめると、伽鹿舎の加地さんには、「本を読む文化が比較的根付いている熊本からも本屋さんが消えつつある現状」「本屋さんの画一化」「確実に売れる本だと地方のお店は冷遇される」という状況が嫌だなあ、というお気持ちがあったというお話がありまして。
さらに、震災のあった地元に対する愛情と、「新人賞でいうなら17番目の人の書いたお話が、自分にとってはすごく読みたい好きなお話ってことだってあるはず」などなどの、いろんな本や出版業界に対する「こうだったらいいのにな」があって。
多様な(ちょっとはしょってこの書き方とさせていただきます)本を、売りたい人が、読みたい人に届けられればいいのにな、という前提の気持ちから、「じゃあ、自分の読みたい本を作ろう」が、伽鹿舎という出版社の大きな柱になっている、という流れのトークでした。
イベントでは、どんなふうに出版社としてスタートして、どんなふうに本ができあがっていったかが、まるでドラマみたいな展開で余さず聞かせていただけたのですが、そこはイベント参加者の特権ということで詳細はそっと内緒にしておきます。
イベントのまとめは乱暴ですが、ここまでです(笑)。
以下、感想。
素敵な物語みたいな実話を聞いて、私は、伽鹿舎さんが、「本が好き」というところからスタートして、どうやったらみんなが楽しめるか、本を読むのが好きな人たちに素敵な世界(環境)を提供できるかを、伽鹿舎さんのやり方で、「正解」に向かって歩もうとしているのだな、と思ったのでした。
私は一時期、もはや今の時代のニーズには、大きな出版社でマスのヒットを狙うというビジネスモデルそのものがあわないんじゃないかな、と思っていたのですが、大きい出版社には大きい出版社にしかできないこともあり、それはそれでとても重要だよねと今は思っています。某先生もおっしゃっていたように、大きなヒットがあるからこそ、売れない作家も作品を出してもらえる、新しい人が育てられるという側面はやっぱりとても大きいと思うし、「いっそのこと既存のインフラごと変えちゃおうぜ」みたいな大掛かりなことも、資金と人材が豊富なほうがやりやすい。それに、マスに売れるくらいでないと、作家は職業として食べていけない、というのが現状で、それはいかんともしがたい事実なのです。なので、大きい会社で大きいヒットは、なくてはならないのかもと思っています。「正解」のひとつとして。
でも一方で、大きいと動きがにぶくなったり、確実に1000人ほしい人がいる、みたいな本は作れなくなったりします。
もともと出版社って一人でやっている会社のほうが(たぶん)多いくらいで、元手を少なく始められるかわりに利益も大して出ない、しかし文化や嗜好の多様化に沿うにはあらまほしき本はあるはず、よって一人で作って頑張る、みたいな特徴が、すごく、あると思います。
もう記憶も定かでもなく調べもしないで書きますが、たぶん20年くらい、ずーっと出版業界は不況です。かつて一万店以上と言われていた全国の書店さんでも、なくなった本屋さんは数知れません。かなり安定しているように見えていた有名店でさえ、閉店のニュースはここのところよく耳にするようになりました。できればもう聞きたくないなーと思いますが……。
出版社が大きくなろう、とした背景には、その長引く、出口の見えない不況を乗り切るための体力をつける、という意味合いもあるんだろうなと思っていたのですが、延々不況が続いた結果、逆に、ちょっと前から「小さい版元のほうがぎりぎりでもやっていけるんでは?」みたいな方向になりつつあるのかな、と感じていました。というか、そのほうがいいんじゃないかと、個人的には思っています。他の娯楽がインタラクティブになり、ユーザーのニーズに細かく答えるような、かなりカスタマイズされた(わーカタカナ使ってる!)ものになっていく中で、画一的な大ヒットだけを狙って本を作るというのは、正解ではないのでは? と思ったんですよね。
(ものすごく話がそれますが、小説はそもそもたいへんにインタラクティブなエンタメだと思うんですけれどその話は猛烈にまた長いので機会があったら友達と飲み屋で喋りたい)
そんなことを考えていた矢先、いろんな偶然が重なって伽鹿舎さんを知る機会があり、その上イベントもあるというのでわーと思って聞きに行ったわけなんですけれど、なので、小さい出版社が、多様な本を作っていく、という流れがきたらいいなーと思う私にとっては、伽鹿舎さんはとっても興味深いし、できればこれから、ビジネスとしても成功していってほしいなと思う次第です。このやり方でも採算が取れる、作家も食べていける、読者は自分の好きな本に出会えるとなったらみんな幸せなわけで、ちゃんとメインのお仕事として出版をやってくれる人も出てくるはずなので。
ニーズに応えておたがいちゃんと利益を得ていこう、という流れ自体は、先にはじまったのは「本屋さん」からかなと思っています。もちろん、私が知らないだけで、出版社さんが先かもしれないのですが、寡聞にして思い当たるのはミシマ社さんくらいですかね……。ん、ということは出版が先かもしれない。まあ、どっちが先かはどうでもいいのでおいときます。
特徴、個性を打ち出した本屋さん、と言いますと、今回のイベント会場になったtsugubooksさんもそうですし、今回イベントで聞き役をされていた松井さんの営むH.A.BOOKSさん、下北沢B&Bさん、神楽坂のかもめブックスさん、と首都圏ではいくつか例がありますし、ニュースにもなった北海道のいわた書店さんの「一万円選書サービス」なんかもその一例じゃないかと思います。私が知らないだけで、きっともっといっぱいあるだろうと思います。
あとは、結構昔からある気がするんですが、喫茶店とかコーヒー屋さんとかの、洋書やアートに特化したブックコーナーとか。もうちょっとヲタ系でいうならば、たとえばコミックZINさんとかもそうだし、コミコミスタジオさんとか、とらのあなさん、アニメイトさんあたりは「特化した本屋」ですよね。
ついでに、かもめブックスさんでは「ことりつぎ」(小取次、ちいさい本の中卸業)という試みをなさっていて、このあたりは完全に、ターゲットを絞ることで的確に利益を出していこう、という流れだと言っていいと思います。
これまた不勉強で知らなかったのですが、H.A.Bookstoreさんでも取次の業務をやってらっしゃるんですよね。すごい。
もう長くて読むのがうんざりしてきたと思いますが、伽鹿舎さんのような「読みたい本を作ろう」という、100万部を目指さなくてもいい(結果として100万部売れれば最高ですが)、それでもきちんと文化として、仕事として成り立っていく仕組みの出版社と、既存とは違う仕組みの書店がうまく結びついて、必要としている読者に届くなら、紙の本はまだまだ、ビジネスとして成立するんじゃないかなと思いました。そういう希望が持てた気がするなー、という感想です。
読み手としていうならば、選択肢が増えるのが嬉しい。
書き手の末席としていうならば、これまた選択肢が増えるのが嬉しいです。
一人ではない出版社の中でも、BLの話になりますけど、「怖い話BL」とかそういうものは、アンソロジーにまとめることでニーズに応えつつ利益も出そう、ということなんだと思うので、斯様にみんな、それぞれの立場で、ジャンルで、「正解」に向けて頑張っているわけですよね。
それで、これはほんとにフィクションみたいだなーと思うのですけれど。
伽鹿舎さんのお話を聞いていると、偶然にずいぶん助けられているような、周囲が巻き込まれてどんどん伽鹿舎さんのために動いていくような、不思議な力が働いて出版社ができて、本になり、流通することができていってるんですよね。もちろん、はじめるまでの加地さんがつちかってきたいろいろなものがあるからこそ、そういう偶然が起きているんだと思いますが。
たぶん、人って意外と巻き込まれたいんじゃないかな、とも思ったし、誰かの強い気持ちは他人にも大きく影響するんだな、とも思いました。それがマイナスの感情のときもあるけど、プラスの感情が働いたら、関わった人が「これってもしかして、すごくいいことが起こるかも」というわくわくした気持ちになれたりする。
なにか新しくはじめるときは、だから、「強い気持ち」「明確なビジョン」ってほんとに大事なんだと思います。
あとは、個人的には。人が一人でできることには限界があるので、書き手(作家)と編集者と、デザインする人、ビジュアルを担当する人、あたりは極力分業するのがいいだろうなーとも思いました。
ひとつひとつの小さい取り組みは、うまくいくかもしれないし、失敗するかもしれないし、それはいらないよってユーザーにそっぽを向かれる方法があるかもしれないし、どうでもいいよそんなもの、と言われることだってあるかもしれない。同じ本が好きな人の中でも、「私はその方法はなんかカラーが違う気がするから好きじゃないわ」っていう人がいるかもしれないし、やっぱり結局、世界に残っていくのは大きい会社の生み出したものすごいヒット作だけかもしれない。マイナスのことはいくらでも思いつきますが、「正解は、絶対にひとつじゃない」はずだと思いたい。できたら方法や挑戦はひとつでも多いほうがいいし、願わくはその中でBLが、これからもっと豊かに、楽しくて面白くてどきどきする「正解がたくさん存在するジャンル」であってほしいなあ、と思っています。
どうですかこの意識高い系みたいな文章。
途中目が滑って読めなかったよ、という人のためにまとめると、本が好きな人が楽しく前に進んでいるのを見ると元気になるよね、っていう、感想です。
本好きは、本好きの話を聞くと元気になる法則。